| 2007年7月7日。百年に一度だけ巡ってくる『070707』という縁起のいい日に、BUCK TICKの『TOUR PARADE』は東京公演を迎えた。Zepp Tokyoは当然ながら超満員。場内に流れているスタンダード・ジャズ風のBGMは、ポール・アンカによる『ロック・スウィングス』と銘打たれたカヴァー集。年代モノに聴こえるその楽曲たちが、実はBON JOVIやOASIS、NIRVANAなどのリメイクだったりすることに気付いたファンも、決して少なくないことだろう。
この夜の共演者は土屋昌巳。TOKIE(b)、スティーヴエトウ(perc)、ひぐちしょうこ(ds)といツワモノ揃いの顔ぶれで演奏されるのは、アヴァンギャルドで、アグレッシヴで、ある種プログレッシヴな耳慣れない音楽。それもそのはず、ある1曲を除いては、すべてが初披露の楽曲ばかりだったのだ。そして、“ある1曲”とは、言うまでもなく「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」。「タイトルで、コレをやりたいと思った」と選曲理由を明かした後、土屋はこの日のために徹底的に歌の練習を重ねてきたことを吐露し、オーディエンスの歓声を集めた。
が、イントロが聴こえてきた瞬間、その歓声がさらに大きくなったのは、ステージ上にブラック・スーツで正装した櫻井敦司がゆっくりと現れたからだ。この奇跡的合体を見逃したファンは、土屋の言葉を借りるまでもなく、まさに「一生後悔する」ことになるだろう。それほどまでに究極的な風景だった。もちろん、その場面にだけ歴史的価値があったという意味ではない。ここで聴くことのできた“新しい音楽”の刺激度の高さが、とにかく尋常ではなかったのだ。あくまで僕個人の歪んだ感性で形容するとすれば、たとえば「JANE’S ADDICTIONとKING CRIMSONの融合」といった感触でもあった。BUCK-TICKのメンバーたちも当然ながら大いに触発されたに違いない。実際、終演後の打上げの際、今井寿は「すごかった。ずーっと最後まで観てしまった」と語っていた。
それからしばらくの時間経過を経て、BUCK-TICKの登場すべき時刻が近付きつつあった頃、突如、場内は暗転。しかしいつものSEは聞こえてこない。次の瞬間、ステージ中央に浮かび上がったのは、なんと西川貴教の姿だった。
「あ、どうもこんばんは」
一瞬にして、場内の空気が嬌声と笑い声に塗りつぶされる。と、いうわけで、まったくの無告知での登場となったのは、西川の率いるabingdon boys school。なんと、他のイベントへの出演を終えて、この場に駆けつけてきたのだ。が、もちろん彼らの得意技はオーディエンスを和ませることではない。この“掟破りの新人バンド”がメンバー個々の卓越した演奏技術を武器としながら体現するのは、まさに世界的な意味での“いまどきのロック”と、きわめて温度差の小さなもの。たった3曲の短いライヴ・パフォーマンスではあったが、彼らは確実に、場内の室温をさらに上昇させることに成功していた。そんななか、2曲目に演奏された「ドレス」での丁寧な歌唱もまた、とても印象的だった。
西川が「9月に会いましょう!」と言い残してステージを去ってから、ふたたび空気の流れが一変するまで、さほど時間はかからなかった。午後7時36分、場内は暗転。すでにこの『TOUR PARADE』に通い詰めてきた人たちには耳慣れたものになっているはずのSEが響き、ステージが白い発光物体と化す。ゆっくりと各々の配置につくメンバーたち。次の瞬間、星野英彦が弾き始めたのは、あくまで華々しい「ANGELIC CONVERSATION」のイントロだった。その瞬間、Zepp Tokyoを埋め尽くしたすべての観衆が、ひとつに束ねられていたことは言うまでもない。
そして、櫻井に促されるままに沸き起こる手拍子のリズムは、そのまま「Baby, I want you.」へと場面を移行させ、さらにその艶かしいビートに乗ったオーディエンスの合唱をインタールードとしながら、曲は「BUTSER」へと転じていく。まさに完璧な流れ。しかもそれが、スリリングなまま熟成されている。
「パレードへようこそ!」
観衆への挨拶を済ませたあと、櫻井は1曲目で衣装の股の部分が裂けてしまった事実を告白し、さらには「ちゃんと隠すんで大丈夫です。見えたらごめんなさい」と言って笑いを誘う。そして炸裂したのは「MY FUCKIN’ VALENTINE」。そこから先も、BUCK-TICKのステージは、心地好いスピード感と豊かな起伏を伴いながら、一瞬も間延びすることなく転がり続けていった。柔らかな光のような「GIRL」から、深海のような静けさを伴った「ノクターン-RAIN SONG-」へ。七夕の夜にお似合いの「RENDEZVOUS〜ランデヴー〜」から、ロックンロール然とした疾走感に支配された新曲、「スパイダー」へ。そして気がつけば、僕らは「ROMANCE」から「夢魔-The Nightmare」へと連なる漆黒の世界も通り抜け、「ICONOCLASM」の鮮やかな混沌のなかにいた。まさに、時間の経過を感じさせないライヴだった。
アンコールでは、珍しい場面を目撃することができた。前述の通り、衣装が緊急修復不能な状態になってしまった櫻井が、なんとTシャツにジーンズという姿で現れたのだ。
「ごめんなさい。こんな格好で」
結果、櫻井はこの夜、2度も「ごめんなさい」を口にした。しかし、オーディエンスが彼に伝えたかったのは、間違いなく「ありがとう」だったはずである。もちろん衣装が破れたアクシデントに対してではなく、素晴らしい時間を共有できたことに対しての。
アンコールの最後の最後、「スピード」に波打つ客席に、彼はこう告げて姿を消した。
「ありがとう。さよなら。また会いましょう!」
それは別れの挨拶ではなく、再会の約束だった。その瞬間、客席にいた誰もが9月8日に向けてのカウントダウンを始めていたに違いない。
text :増田勇一/photo:MASA |